こんにちは、クラッソーネライターの豊田有希です。
富士山と生きるおばあちゃんの知恵では、山梨県巨摩郡身延町に住むおじいちゃん、おばあちゃんの暮らしの知恵を紹介しています。
第12回の4月(卯月)。今年の桜の満開は全国的に例年よりも1週間位遅かったようですね。
身延のしだれ桜もやはり同じで、4月の初旬から中旬ぐらいに満開を迎えました。私が身延を訪れた中下旬には満開を少し過ぎたしだれ桜が迎えてくれました。
4月になると田植えの準備が本格的に始まります。
日本列島では、温かい地域から順番に田植えの季節を迎えます。
まるで”桜前線”が北上するのと同じように、”田植え前線”も日本列島を北上していきます。
そして、ここ身延町では、5月中頃に田植えをするのが例年の習わしです。
「苗づくり」は田植えの約1ヶ月前からにスタートします。
皆さんは田植えが終わった田んぼの風景を見たことがありますか?
田植えをしたことがある方はもちろん「苗」を見たことがあると思います。
田植えの際には約15cm位に伸びた「苗」を植えますが、農家さんはこの「苗」をそれぞれ育てています。(農協から購入する場合もあるそうです。)
この「苗作り」は「苗半作」と言われ、苗の出来・不出来でその年のお米の収穫の半分を決めると言われる大事な作業になっています。
各農家さんによって様々なやり方があり、工夫を凝らしているという話もよく聞きます。
その「苗」をどうやってつくるのか、その第一歩を取材しました。
「籾」は農協から購入します。
ここで言う「籾」は野菜で言う「種」のことです。
毎年年が明けると、注文書が回覧で回ってくるので、それに必要数を記入し申込むそうです。
どの品種を何キロ必要かは、今年の田んぼの広さによって決まります。
「籾」が届いたら適正な濃度の塩水に入れて選別。
塩水に入れて上に浮いたものは中身が入っていないということで捨て、沈んでいるものを選びます。
この後、種を消毒し、病気にならないように対策をします。
芽出しをします。芽出しとは、「籾」から芽がでている状態にすることで、その為には数日間かけて約10〜15度くらいの水温に浸けます。
積算温度が100度が目安だそうです。
こちらが芽出し後の籾です。
籾の先に1ミリくらいの白い線のようなものが出ているのですが、これが「芽」になります。
これがでたら籾をまくための準備が完了です。
そして、苗箱と言われる箱に苗用の土を入れ、籾をその上に均等にまいていきます。
使ったのはこちらの土です。水稲専用とありますね。
箱に土を入れたら、一定の高さに揃えます。これも大事な作業です。
土を入れて水に十分浸したら、籾をその上に均等にまいていきます。
大規模農家と呼ばれるような農家さんは、機械で撒くそうですが、おばあちゃんたちは手作業。
手で巻いたり、手押しの機械などがあったりと、農家さんによって持っているものが違います。
籾をまいたらその上にうすーく土を乗せます。
こちらは専用の器具を使って土を乗せている様子です。
緑色の部分はレールの役割をしている、不思議な器具です。
田んぼは一年に一度なので、一年に一度しか登場しない器具があるんです。
土を乗せ終えた苗箱の様子。ところどころ、うっすらと籾が顔をだしています。
土を乗せすぎてしまうと、芽がでなかったすることがあるため、苗作りはとても繊細な作業です。
しかも1年に一度の大事な作業なので、それぞれが蓄積したノウハウが光ります。
約40年位米を作っているけれど、米は一年に一度しか作れないから、それでも40回しか作ったことがないよ
と、おじいちゃんは言いますが、40回と言っても、毎年気候も違い、同じ1回は二度と来ません。
過去の経験で解決できないことが起こることもあるけれど、1年に1度しかできない経験を積み重ねながら、その年の米作りの環境と向き合い、挑戦していくことに米作りの真髄を感じました。
私たちもお米づくりをするようになってから8年目となりますが、いつも修身さんや地元の方に教えてもらうことばかりで、全く足元に及びそうにはありません。
さて、これからの苗箱は、シルバーポリマーという専用のシートで作ったビニールハウスの中に入れて、ハウスの温度を30度くらいに保ち、さらに芽を1cm程度に出します。
その際、乾燥させないようにすることが大事のようなので、隙間がないようにしっかりとハウスの脇に土をかぶせて蓋をします。
芽が出た後は、昼間はシートを外し日光にあて、夜は苗が冷えないようにシートをかけるという細やかな世話を繰り返します。
こうして1ヶ月をかけて田植え用の苗を育てていくんです。
次回の生地の時には青々とした生命力を感じる苗をお見せすることができると思います。
春を告げる山菜は、ふきのとう、わらび、竹の子と順番に山に顔をだしてくれています。
先月は、ふきのとうをご紹介しましたが、今月はちょうど竹の子が旬となりました。
よく果物などは、沢山収穫が取れる年を「表年」、その翌年は収穫が少ないので「裏年」という言い方を聞きますが、今年の竹の子は「裏年」なので、豊作ではなく品薄です。
しかも、身延町では、いのししや猿も竹の子を狙っていますので、早く見つけて、早く採らないとありつけません。
修身さんが竹林の下草を刈ってくれていたおかげで、沢山の竹の子が竹林にでていました。竹の子の里とまでは行きませんが、一年に一度の竹の子掘りはお宝を見つけたようでテンションが上がります。
竹は土の中で根が張っているので、掘るのはとても体力と知恵が必要になります。
どんなに掘っても、根っことつながっている部分を専用の斧で切断しないとうまく掘れないからです。
かなりの傾斜面ではありましたが、沢山の竹の子を分けていただくことができました。
分けていただいたわらびと一緒に天ぷらやおさしみでいただきました!!
今しか味わえない春の恵をいただくととても幸せを感じます。
この時期に準備をするものとして、しいたけの菌つけがあります。
ナラやくぬぎの”原木”にを1mのサイズに切り、それに穴を開け、ホームセンターで販売しているしいたけの菌を中に打ち込みます。
一定期間を経て、しいたけ菌が原木を食べ、、しいたけが木からニョキニョキとでてくるという仕組みです。
これがいわゆる原木しいたけと言われます。
山あいに行くとよく原木しいたけを売っているのを見かけますが、材料となるならやくぬぎがあることや、菌を打ち込んだ後、直射日光が当たらず風通しの良い場所に置くため、そういった環境がある山あいでしいたけ栽培がされているようです。
ドリルで穴を開けました。
これがしいたけの菌で、こちらは「駒菌」と呼ばれるもの。
木片(駒)にしいたけの菌糸を培養したタイプの菌。香りをかぐとしいたけの香りが・・・!!!
トンカチでとんとんと打ち込みます。子供も喜ぶ楽しい作業です。
菌を木に打ちつけて、しいたけが収穫できるのは大体翌年の秋です(二夏を超える)。
最初に聞いた時は、そんなに先のことなのか?!と驚きました。
ファストフードが流行る現代ではなかなか珍しく時間がかかる食べ物なのです。
こちらは数年前に菌つけをした原木からでていたしいたけです。
しいたけは雨が降った後にニョキニョキと大量にでてきます。
そろそろ出てきたかなぁ?とほだ木(しいたけの植菌が終わった原木のこと)を見に行った時にしいたけを見つけると、お宝を見つけたようで心が弾みます。
収穫の時期は先ですが、その季節毎に準備をしていくことで、実りの喜びを迎えることができ、実りを迎えるには”時”と”手間”が必要だということをお米もしいたけも教えてくれているような気がします。
これは何を育てているかわかりますか?
答えはこちら。ウドです。
皮はきんぴら、中身は酢味噌、芽の部分は天ぷらにして食べるそうです。
長い茎の部分の周りには、籾殻がしきつめられています。
ウドの茎の部分が白いのはわざわざ日に当てずに育てるから。
こういった栽培方法は軟化栽培と言われるそうです。こうすることで、色は白く、柔らかくなるそうです。山に自生する山うどよりもあくやえぐみが少ないそうです。
田舎には春の恵が本当にいっぱいあります。
山菜はもちろん新鮮であればあるほど柔らかく香りも強いです。
山菜の苦味はデトックス効果があると言われますので、冬に溜め込んだものを体内から出してくれます。
美味しいだけでなく、体にも必要なので、積極的に取り入れて行きたいですね。