こんにちは。クラッソーネライターの豊田有希です。
富士山と生きるおばあちゃんの知恵では、山梨県巨摩郡身延町に住むおじいちゃん、おばあちゃんの暮らしの知恵を毎月紹介しています。
第35回の8月(葉月)。
田んぼに起こった面白い現象の話題からスタートです。
到着早々、「面白いものがあるよ~」と田んぼでおじいちゃんが楽しそうに私を呼びました。
「これ、見てよ~」と言われて、私たちが植えさせていただいている田んぼを覗くと…
あれ?一部分だけ違うものが生えている…
これは一体…??
面白いねぇ(*^^*)
もしや…間違えちゃったんですか?!
そうみたいなんだよ~。きっとこれはもち米を植えてしまったんだね。
え―――!
おじいちゃんが指導している田んぼに、今年の5月にみんなで一斉に田植えをしました。その際に違う苗が混ざっていたなんて!
10年間、田んぼをやってきて初めての予期せぬ『田んぼアート』の出現に、面白いこともあるものだなぁと自分たちの失敗も忘れて笑ってしまいました(;^ω^)
この記事が配信されるのは9月ですが、この取材をしたのはちょうどお盆の頃。
お盆と言えば、各地域によってそれぞれいろいろな風習が今も残っていると思います。
おじいちゃんとおばあちゃんが暮らしているところはいわゆる本家であり、先祖代々が暮らしてきたこの家と土地とお墓を守っています。
皆さんの出身地域にも独自の風習があると思いますが、おじいちゃんとおばあちゃんが住む地域のお盆を少しご紹介してみたいと思います。
お2人の家では8月12日の夜か13日の朝に準備をしてご先祖様をお迎えし、16日に送り出します。
1つの部屋にゴザを敷き(盆ござと言います)、その上にお膳を置き、仏壇にある先祖代々からのお位牌を出してすべて並べます。
本家なのでまさに先祖代々たくさんのお位牌があり、仏壇の中からすべて出して並べるだけでもなかなか大変な作業です。
でも、年に1回ひとつひとつのお位牌に触れてご先祖様と語らう大事な時間になるのかもしれません。
日本でのお盆と言えば、茄子ときゅうりで馬を作りますよね。
これにご先祖様が乗ってくると言われていて、おばあちゃんはもちろん自家製茄子で胴体を作り、しっぽはとうもろこしのヒゲで代用し、背中の上には生姜をのせ、そして『にな』と呼ばれるうどんやそうめんを茹でたものも背中の上に乗せるんだそうです。
そのあたりがかなりオリジナリティーありますよね(*^^*)
また、お2人の家には大事に保管されている「曼荼羅」が描いてあったりする掛け軸があるそうで、その掛け軸を部屋いっぱいの壁にかけるのもこちらでのお盆の習慣。
昔は2部屋いっぱいに飾っていたそうですが、今は大変なので1部屋に飾っているそうです。少なくなったと言っても、「今年は20枚くらい掛けたわよ」と話してくれました。
もう既にここまででかなりの大仕事だということが分かりますよね。
ご先祖様がいらっしゃっている間は、その時に自分たちが食べるものを一緒にお膳にお供えするそうです。つまり、お2人の食事をあともう1食分多く作り、朝昼晩同じものを仏さまと一緒に食べます。
他にもいろいろなしきたりがあるそうで、この地域では16日に送り火をし、その際にお花やお供え物を川に流すそうです。
今では少なくなった、「川に流す」という習慣。
地方によっては灯篭流しなどもありますよね。
この地域では、ご先祖様のお土産にとお土産団子を手作りして、それも一緒に持たせて川に流すそうです。昔はこの時期にスイカが川にぷかぷか浮いていたりといろんなものが流れていったとか。
また、普段は静かなこの町がたくさんのお客さんで賑わう時期でもあります。
空き家が増えているこの地域でも、盆と暮れは親戚が戻ってくるからと空き家のまま貸さずに置いている方が多いのだそうです。
そうして親戚をもてなすのは、家を受け継いだ者の役目のようなもので、おばあちゃんは「こんなに大きな家をいただいたから」と先祖代々の味を引き継ぎ、訪れる人たちに振る舞っています。
それでも、「お姑さんの味にはまだなってないのよ~」と「おふくろの味」の奥深さを感じているようです。
お2人のように、先祖代々の土地で今も暮らしている人はだいぶ少なくなり、このようなしきたりとはあまり縁のない人のほうが多く、今では「お盆」と言えば旅行シーズン!というイメージのほうが強いですよね。
今回、お盆の話を改めて聞きながら、お盆の数日間は毎年先祖の方々と共にいるという風習は準備などの煩わしさもあるものの、今生きている私たちに脈々と続く命のつながりを感じさせてくれる興味深いものでした。
こちらの大きなハート型の葉っぱは、ふき。この畑の中に小さなピンクの花が咲いていたので、「かわいいですねー」と声をかけるとおじいちゃんは「可愛いかい?俺は憎たらしいよ~(笑)。雑草も、猿も、鹿も。」と。
おじいちゃんが「猿も鹿も憎たらしい」と言ったのには理由がありまして、、、
またもおばあちゃんの畑を猿にやられてしまったそうなのです!
家の横で自家製野菜を一生懸命作っているおばあちゃん。
野菜作りはおばあちゃんの大事なお仕事です。
その畑にあった、大事に育てていたかぼちゃを猿に食べられてしまったそうです…
ほんとに賢いんだよねー
猿は、おじいちゃんおばあちゃんが家の外にいるときは、顔を出さずどこかに潜んでいます。
そしてお昼になってお2人が家に入るとまさに「チャンス!」とばかりに畑にやってくるらしいのです。
おばあちゃんがガサゴソと言う音を聴いて外に出てみると、1階の屋根の上に登って猿がかぼちゃを食べていたそうです!
おじいちゃんとおばあちゃんに合わせて猿もお昼ご飯を食べていたわけですね(;^ω^)(おじいちゃんおばあちゃんからすると笑えない…)
ところが、大きく育っていたかぼちゃを猿はさすがに抱えて歩くことができず、おばあちゃんに見つかった猿はおそらく泣く泣くかぼちゃをその場に置いて自分だけ逃げていったそうな。
また、金網とネットに囲まれた野菜畑の中にまで猿が侵入してきて、他の野菜も食べられてしまったようで…まさに「野菜泥棒」です。
畑の金網やネットの補修はおじいちゃんの担当。今までも何度か入られているので、その度に補修をしているようなのですが、今回の猿は屋根の部分のネットの小さなほつれを探し当て、その小さな穴を大きく広げ畑に忍び込んでしまったのだそうです。
猿は本当に賢いのよ。ネットの中に入ったはいいけど、出られなくなっちゃうといけないでしょう?
そうですね。
入って出ることをちゃんと計算して場所を選んでいるのよ。
え!どういうことですか?!
ネットのてっぺんに穴を開けて、そこから畑の中に飛び降りることができても、ネットのてっぺんは2メートルくらいの高さがあるから、何か掴めるものがないと帰る時に上に上がることができないじゃない?
そうですね。地面からジャンプしてもさすがに2メートルじゃ猿も届かないですね。
だから、支柱を伝っててっぺんに戻れるように、支柱近くに穴を開けてあるんじゃないかと探したら、あったのよー!
か、賢い…!!
猿にとっても生きていくのに必死ですから気持ちは分かりますが…やっぱりおばあちゃんが毎日一生懸命育てている野菜や果物を簡単に持って行かれてしまってはさすがに腹立たしいもの。
おばあちゃんのためにも、おじいちゃんと猿との知恵比べは今後も続きます。
訪問するたびに出してくれる、おばあちゃんお手製の美味しいおやつ。今回は、ブルーベリージャムの乗ったヨーグルトを頂きました。
おばあちゃんは2種類のブルーベリーの木をお庭に植えて数年間大切に育てていたところ、今年はたくさんの実が付いたそうです。
高さ1mたらずのブルーベリーの木は、一度にそんなに多くの実をつけません。
まず1回実を収穫し、おばあちゃん曰く「ダンボールを敷いてその上に転がして干しておく」。
そしてまた2~3日後になるともう一度収穫して、2回分の収穫量が500グラムほどになったらジャム作りの始まりです。
おばあちゃんのジャム作りはとてもシンプル。
材料はブルーベリーと砂糖のみです。
ブルーベリー500gに対して、砂糖は半分の250g。
水で洗ったブルーベリーに砂糖を加え(2回に分けて加えるのがポイント)、細い火で1時間くらいコトコトと煮たら、オタマで潰して出来上がり。
ブルーベリーのつぶつぶ感を残した美味しいジャムに仕上がっていました。
生のブルーベリーは「酸っぱいねー」と言ってそのままでは食べないおじいちゃんもジャムになったら食べてくれるそうです。
これもまた一手間かけたからこそですね。
ブルーベリーの木と実。これも猿に食べられないようにネットをかけています!
鉢植えのブルーベリーでも実がなるようなので、大きなお庭がなくても鉢植えで育ててみることもできそうですよ。
添加物の入っていないジャムは身体にいいですし、ぜひお手製ジャムを試してみてください!
おじいちゃんたちの住む身延町には身延山久遠寺という大きなお寺があります。以前もご紹介しましたが、久遠寺はしだれ桜の里と言われていて、3月~4月の桜の時期にはプロ・アマチュアのカメラマンが多く集まります。
身延山の総門と呼ばれるお山の入り口にある大きな門から次の門(山門)までは緩やかな坂が続きます。
このあたりは門前町と呼ばれ、たくさんお土産屋さんが並んでいて観光にもおすすめ。
この門前町にお店を構える商店街の方々が「蓮を身延山の名物に」を目標に、毎年この時期になると通りに面した玄関に大きな蓮の鉢植えを置いて育てています(6月下旬から8月中旬までが見頃)。
その数は80鉢。いろいろな種類の蓮の花が植えてあるようなので、かなりの見ごたえです。
今回、ちょうどピンクの蓮の花が開いているところに遭遇。
泥の中から育ち清楚な花を咲かせる蓮の力強さと凛とした美しさに心が和みました。
花言葉:清らかな心、神聖、雄弁、離れゆく愛
仏教では、泥の中から生まれて清浄な美しい花を咲かせる蓮の姿が仏の知恵や慈悲の象徴とされているそうなので、門前町にぴったりの花ですね。
蓮の花の姿に清らかな気持ちになったり、この地域のお盆のしきたりをうかがって、いまいちど自分も日本に長く続く風習をじっくり見直してみたいな、と思った今回の身延町訪問でした。