こんにちは。フリーライターの石崎です。
今回からスタートする新企画「キラリ職人技」では、家づくりに関わる職人さんたちにスポットを当てていきたいと思います。
ところでみなさん、ひとつの家が完成するまでに、どれだけの職人さんたちが関わっているかご存じですか?
家づくりに携わる職人さんの種類は30以上もあるのです!
それなのに、職人さんの活躍の場を知る機会はなかなかありません。
そこで、実際に作業の現場を見て、話を聞き、どのような技が家づくりに生かされているのかをお伝えするのが、この企画。
第1回目は、解体業者さんの技を教えてもらいにいきました!
解体工事が発生するシーンは、家の建て替え時や、中古住宅付きの土地を購入して新築を建てる時などです。
実際はハウスメーカーが一括して取り仕切る場合が多く、施主が解体業者に直接依頼する機会はめったにありません。
ほとんど目にすることのない解体工事の、スゴ技を3つご紹介します!
そもそも解体って、なに?
今回、ご協力をいただいたのは、名古屋市を中心に解体工事を手がける有限会社沢(さわ)和(かず)さん。
建築物解体工事業者として1983年に創業。
解体工事にくわえ、作業中に出た産業廃棄物の運搬、処理までを一貫して行うという会社です。
解体業って、何をするイメージありますか?
建物を壊すことですよね。でも、それじゃ当たり前か・・・。
一般的な解体の流れは以下の通りです。
- 養生
- 瓦、内装材等の撤去
- 解体
- 整地、清掃
養生とは、隣接する建物に傷をつけたり、ホコリや破片など飛散物が飛ばないよう、ビニールシートなどでカバーをします。
この養生をしっかりしないと、近隣からのクレームになりかねません。
次は瓦、内装材の撤去です。
いきなり重機で壊すことはほとんどなく、瓦や内装材は人の手ではがしていきます。
法律で定められた20種類の材質ごとに適切な処理をするため、現場レベルで細かく分別をしておかないとあとから大変になってしまいます。
また、敷地が狭い場合も、手作業で壊していき無理に重機で壊したりはしません。
手作業による下準備が完了したら、油圧ショベルと呼ばれる重機で、一気に建物を壊していきます。
この時も重機オペレーターと、そこで出た廃棄物を分別する担当者の2~3人体制で作業を進めていきます。
建物がなくなったら、土に混ざったコンクリートガラなどを除き、周辺道路の清掃をし、作業終了となります。
このように、解体といっても家を壊すことだけが仕事ではありません。
解体は壊すことと、そこで出た産業廃棄物を処理することが主な仕事なんです。
一気に重機で壊せばいいわけではなく、産業廃棄物を適切に処理しなければなりません。
解体が終わった後は、次の活用がしやすいように丁寧に整地するようにします。
産業廃棄物の分別も仕事なんですね。
そうなんです、分別は非常に細かな作業なんですよ。
しかも、解体は人から怒られてしまう仕事。
隣で大きな音を出したりしていたら嫌でしょう。
私たちがいいかげんな仕事をすると、あとあと依頼したお客様の評判も悪くなってしまう。
そのため、周囲への気遣いも解体業者にとって大事なことなのです。
解体工事そのものだけでなく、産業廃棄物の分別、周囲の方や依頼主さんへの気遣いも含めてお仕事なのですね。
さまざまな技がある中、今回見せていただいたのは以下の3つ。
- 丁寧な分別作業
- オペレーターの高い技術力
- 壊した後も美しい「整地」へのこだわり
この3つのスゴ技をここからご紹介します!
スゴ技1・丁寧な分別作業
まず、30坪ほどある木造家屋の解体作業現場を訪れました。
作業中の重機が1台、そして木材を積んだトラックが1台待機しています。
地面を見てください。
解体中なのに、物が少ないと思いませんか?
確かにすっきりしています!!
よく見ると、木や鉄くず、コンクリートがきれいに分けられています。
この日は鉄などの分別は行っていなかったので、別の現場での分別の様子をご覧ください。
下の写真のように、材質別に分けられています。
解体しながら、柱やプラスチック、鉄などを分別する作業を同時にすすめています。
ちょっと解体したら分別、そして解体作業を再開、また分別。その繰り返しです。
ほら、柱もキレイに並んでるでしょ。
現場にいる職人同士が息を合わせ、トラックの荷台に積みこんでいきます。
木造といっても、発生する産廃物は木だけではありません。
サッシ、流し台、配線、器具など、素材ごとに分類していきます。
分別は業者に委託する業者もあるそうですが、沢和さんは自社で分別を行ないます。
分別をしっかり行うメリットは、お客様の工事費用が安くなることです。
処理業者の分別の手間が省ける分、処分費用は安くなりますし、専門のリサイクル業者へ運ぶことができる。
鉄などはリサイクル業者に販売できた費用を、工事費用からさらに差し引くこともできるんです。
産業廃棄物といってもまだリサイクルできるのに、ただのゴミとして捨てられてしまうのはもったいないですからね。
リサイクル業者さんの手間が省けるように、こちらでできることは丁寧に行うようにしています。
また重機が使えない部分は、「手壊し」と言って、人の手で解体する場合があります。
この現場では、最初の1週間で、手前3.6メートルを手壊しですすめました。
これは、機械が入るスペースを確保するためです。
現場前の道が狭い場合、最初から機械を入れて道をふさぐと、近所の車が通れなくなり迷惑をかけてしまいます。
こうした配慮がないと、近隣住民とのトラブルの引き金になりかねません。
手壊しは隣家との距離が狭い場所や、道路が狭く重機が入らない時は手壊しで空間を作ります。内装の解体や屋根の解体などは基本的には手壊しで作業していますよ。
こうした建具等も手で外していきます。
スゴ技2・オペレーターの高い技術力
解体現場といえば、「油圧ショベル」の活躍が欠かせません。
操作する人=オペレーターは、少ない動きで作業効率をよくするかが腕の見せ所となります。
こちらの現場のオペレーターさんは、スムーズで華麗な操作をされていました!
下手な人だと、ガッガッと余計な音がしてうるさいですからね。
ところで、木造と鉄骨のビルを解体するとしたら、どちらが簡単なイメージですか?
木造の方が簡単に壊せそうです!
簡単に壊せる木造のほうが気を使うのは、壊しやすい分、すぐに崩れやすいということなんです。
少しでも作業を間違えたら大惨事になりねないので、木造住宅の解体工事の前には徹底した事前打ち合わせを作業担当者と行います。
実は解体はその場で判断していくことはほとんどなく、事前計画を綿密に立てて、合理的に作業をしているんです。
と話していたその時、2階の奥の壁を解体する作業が始まりました。
ほら、今、筋かいを取ってから、壁を崩したでしょう。
あの作業をしないと、壁が反対方向に倒れてしまうんです。
重機はただ動かせばいいというわけではありません。
いかに動かす回数を少なく、効率よくオペレーションできるかがポイント。
動かす回数が多いということは作業時間が長くなり、工事の日数が増え、最終的には工事費用が増えてしまいます。
操作が下手な職人だと、上手い技術者の10倍以上の時間がかかることもあります。
ここでは細い柱を一つ一つ素早くトラックに積み上げていました。
オペレーションのコツは気になったら、作業を中断し重機から降りて、確認する勇気が大事。
そこで面倒くさがって作業を続けてしまうと、事故につながる可能性が高いのです。
正確なオペレーションは、冷静な判断があって成り立つことなのですね。
スゴ技3・壊した後も美しい「整地」へのこだわり
解体作業が終わった土地の仕上げ、「整地」作業を見てみましょう。
この整地の仕上がりは「職人の心意気」がにじみ出るのだそう。
これでも十分きれいな更地ですが、このようにゴロゴロと石が残っていたりします。
こちらは、沢和さんの担当した更地。
上の写真と比べても、石などボコボコしたものはしっかり取り除いてあり、「まっ平ら」です。
ひどい業者になると、土地の側溝を壊してそのまま帰っていったりするケースもあるのだとか。
側溝が壊れた場合、修理費用はオーナーさん負担となるんですか?
そうですね。
業者にクレームを入れても、知らないと言われるケースが多いでしょう。
その場合、安いという理由で選んでも、かえってお金がかかってしまうこともあるわけです。
見積もりの安さだけに飛びついてはいけませんね。
解体して、生まれ変わりました!
こちらは、もともと一軒家が建っていましたが、解体後、アスファルトを敷いて駐車場にした状態です。
沢和さんは、解体業者でありながら、こうした舗装工事も手掛けています。
こちらの現場にも、沢和さんならではの配慮が光ります。
例えば、このブロック塀。
隣接する民家との境界として作られたのですが、塀をつなぐ丸い部分、何だか分かりますか?
これは、フェンスの脚を埋め込むための穴の蓋で、丸い部分をハンマーでたたけば、簡単に穴が開く仕組みになっています。
気になった時に、すぐにフェンスを立てられるよう、仮の蓋で保護しているのです。
「どうせ穴をあけるなら、あけっ放しでいいのでは?」と思うのですが、それでは雨水が入ってしまい、老朽化を早めることになってしまいます。
このマークも見てください。
ガス管と水道管が通る位置を知らせるためのしるしです。
この親切心は、ガス管と水道管の工事をする人に向けたもの。
こうしたちょっとした心配りをされると、後の事を考えて解体してくれたのだなと嬉しくなりますよね。
解体現場、工事後の更地、さらには整地した駐車場の状態・・・と、どの現場にも共通していたのは、予想を超える気配り力が必要だということ。
しかしながら、そうしたケアは業者によって大きく異なるのも事実。
この取材を通して、「解体」という作業は、目に見える建物を作ることとは異なり、その頑張りが評価されにくい分野のように感じました。
名のある建築を手がけたなら「俺が作ったんだぜ!」とも言えるでしょうが、「無くす」ことではなかなかアピールしにくいものです。
スーパーに並ぶ野菜に「私が作りました」と生産者の写真が入っているように、「この土地、私がきれいにしました」と、解体職人さんたちの技が世に認知されるといいですね。
次回は、解体現場で出た廃材はどこへ行き、どんな姿に生まれ変わるのか。
そこでは、職人さんたち誰がどのような作業をしているのかをご案内します。