こんにちは。
冬の野菜や果物が美味しくてついたくさん食べてしまう、クラッソーネライターの豊田有希です。
富士山と生きるおばあちゃんの知恵では、山梨県巨摩郡身延町に住むおじいちゃん、おばあちゃんの暮らしの知恵を毎月紹介しています。
第29回の1月(睦月)。
取材にお邪魔すると、白煙がもくもくとあがっていました~!これは、何の煙かというと、炭焼きのサイン。
一度は引退したと言っていた炭焼きを、おじいちゃんが再開していました。
先月ご紹介させていただいたのですが、おじいちゃん・おばあちゃんの家では、炭コタツを使っています。
炭コタツって何?というと、つまりはコタツの電力が炭火になっているもの。
炭コタツの仕組みは、掘りごたつの足元に炭が入っていまして、その上に網が置いてあるので、直接足にあたる部分は網なので危なくありません。
その網の下におじいちゃんが作った炭を置きます。特徴はじんわりとしたあたたかさ。遠赤外線が出ているので、冷たい足先の芯まで温まりますよ。
炭と聞いて思いつくイメージは、バーベキューの時などに使う炭でしょうか。炭同士をぶつけるとコンコン!と澄んだ綺麗な音がしますね。
そもそも炭って一体どういう物なのか、ご存知ですか?
木を空気中で普通に燃やすと、カサカサの灰になってしまいます。
一方、炭は木を燃やした灰という意味では同じですが、窯の中で燃やして空気が入らない蒸し焼き状態にすることで、木の原形をあまり崩さずに水分を飛ばしきって炭素の塊だけを残したものになります。
炭を作る行為を炭焼きといいますが、炭焼きには硬い木が使われます。どの木でもいいというわけではないんですね。くぬぎ、樫の木、柿、梅の木などが好まれるそうです。
それを50センチメートル位の長さに切り、並べて窯の中に入れます。
そして、最初は窯の入り口を開けたままで火を焚き、よーく燃やします。これが約3時間。
その後、入り口を塞ぎます。このとき、小さな穴をあけておきます。酸素を減らして燃焼を抑えて、水分を徹底的に無くすんですね。この状態で、煙突から煙がでなくなるまで待ちます。
そして、煙が出なくなったら入り口と屋根に泥を塗り、完全密閉して2日間そのままにするそうです。
朝から炭焼きを始めるとちょうど煙がでなくなるのは夜中の12時~1時ということで、おじいちゃんはその時間に一度起きてきて密閉作業をするそうです。ということは…12時間以上は燃やし続けるということですね。
炭を作ると副産物が出ます。それは、木酢液。
たまに道の駅などで販売しているのを見かけますよね。木酢液ってどんな用途があるのかご存知ですか?
例えばおじいちゃんは、野菜を作るときの虫の消毒などに使っているそうです。他にも、お風呂に入れたり、生ゴミの消臭などにも使えるんですよ。薬品ではない自然由来のものなので、安心して使えますよね。
ただ、一度の炭焼きで出る木酢液はほんの少しなので貴重です。
そしてもうひとつ、美味し~い副産物も。おやつに最適、焼き芋です!
炭焼きをした後に残っている炭のかけらの中に、さつまいもをポン!っと入れて1~2時間待つだけでホクホク甘~い焼き芋ができあがります。
焼き芋のコツは、さつまいもを塗れた新聞紙で包んでからアルミホイルに巻くこと。これによって蒸し焼き状態を作ると、中までほくほくになるんだそうです。
おじいちゃんは数年前まで毎年冬になると炭焼きをしていましたが、「もう在庫もたくさんあるから引退だよ~」と話していました。なぜここで復活したのでしょうか。
以前、炭焼きはもう引退と話してましたけど、なぜ復活したんですか?
5年くらい前に倒木したくぬぎがあって、それを切って置いておいたらよ~うやく乾燥したからだよ
えっ!5年前に切った木の様子を見て炭焼きをしようと思ったなんて!5年ですよ、5年!
乾燥したくぬぎの木がちょうど炭焼きを3回するくらいの量だったので、せっかくあったそのくぬぎを活用するために炭焼きをしたんだそうです。
炭焼きと一口で言っても、まず太いくぬぎの木をひたすらチェーンソーで細く短く切って、それを運んで、約1日かけて炭焼きをして炭にします。
おじいちゃんの窯では、1回にできる炭の量は約2日分。
ものすごく手間がかかるのですが(買ってきた方が安くて手間もかからない…)、これが「身近にあるものを生かす」暮らしなのですね。
平たく言ってしまえば、自然の恵みを生かした生活ということになります。しかし、自然の恵みはこちらの意思とは関係なく、予想より多いこともあれば少ないこともあります。(収穫が少なくても困るし、豊作もまたうれしい悲鳴だったりするわけです)。
あくまでも人間の都合に自然を合わせるのではなく、自然の都合に人間が合わせる。自然を受け入れて生きていくというのはこういう暮らしのことを言うのかもしれません。
おばあちゃんの職場である自家菜園には、今年さっそくお客様があったようです。
ご親戚のお葬式があり2日ほど留守にしたら、姿が見えないときをしっかり狙って、囲われている網の弱いところに穴を開け、菜園内に。
お葬式から帰ってきたら、お猿さんが大根を食べていた現場にバッタリ出くわしたんだそうです!
今年のおばあちゃんの大根畑は今年豊作で、大きくて太い。お猿さんは、普通は収穫物をちゃんと抱えて帰っていくのですが、今回は大根が太すぎて抜けなかったそうなんです(笑)
「お猿さんが食べた大根がおもしろいのよ」と見せてくれました。
あら!上の部分だけかじって食べています!人参も半分食べて置いてあったそうです。
人参は甘さがあるので猿の大好物ということで、ほぼすべて食べられてしまいました。
美味しい部分だけかじっていくなんて贅沢ですね~。
そして同じ大根でも、サイズが小さく抜きやすい聖護院大根は住処に持って帰ってしまったそうです。ちゃっかりしてますね~。
お猿さんだけではく、鹿は毎晩畑に「出勤」してくるそうです。
鹿は几帳面なんだよ~。端から順番に草を食べていくんだよ
え?端から少しづつ食べていくってこと??
そうだよ~。食い荒らすという感じじゃなくて、ちゃんと前日食べ終わったところからまた順番に食べていくんだよね。面白いよねえ
鹿が食べてくれるから、草を刈らなくて助かるね(笑)
鹿は、リュウノヒゲという多年草を端から食べていくそうです。私たちはリュウノヒゲを食べられないので、網で囲っていない場所に生えているリュウノヒゲは鹿用の食べ物になっています。
作物も食べられちゃうけど、不要な植物も食べていってくれる。これもまた「自然との共存」ですよね。
おばあちゃんのところへ行くと、いつも手作りの美味しいお漬物やお惣菜を出してくれます。
今回も自家製大根で漬けたたくあんと、猿にたくさん食べられてしまった聖護院大根の煮物(味噌煮)を頂きました。
聖護院大根は煮物にするとトロットロになってとても美味しいので、おばあちゃんがわざわざ菜園で育てているというもの。
そして、うずら豆の煮物もいただきました。
私は甘い豆煮が実はあまり好きではないのですが、おばあちゃんの手にかかると「美味しい!」と思うから本当に不思議です。
豆の煮物は豆を浸すという工程がちょっとした手間なので、スーパーなどで買ってしまう方も多いと思うのですが、市販のものよりずっと美味しかったのでレシピを紹介させていただきますね。
【材料】
コツは、砂糖と塩を入れるのはお豆がやわらかくなってから!そうでないと味が入っていかないんですって。
おばあちゃんは、ストーブの上でコトコト煮ているそうですよ。
暖を取りながら美味しいものも作れちゃう!昔ながらのエコですね。
1月になると、水仙が沢山咲いていました。
水仙は香りもよくて、おすそ分けをもらって車の中に入れたら、車中が水仙の香りでいっぱいになってとても幸せな気分に。
お花の香りって贅沢な気分にもなれるし癒されますよね。
左の花はピンクマーガレット。花言葉は「真実の愛」だそうです。
写真では白色に見えますが、ほんのりとピンク色なんですよ。こんな真冬でも咲くんですね~。
おばあちゃんはマーガレットをたくさん育てているのですが、花芽がついていたのを見つけて、陽のあたる室内に持ってきたら、見事に咲いたそうです。
そういうことが植物を育てている時の喜びですよね。
右の花は、パフィオって言うのかしらね、とおばあちゃん。洋ランの一種だそうです。
花弁の一部が袋状になっている不思議な花姿をしたラン。
ぽっかりと口が開いたような感じがあり、この口で虫を取るように見えるので、食中植物?!と思ってしまいますが、そうではありません。
これから段々と春に向かうにつれて、きっとおばあちゃんのお花畑も鮮やかになってくるのかなとわくわくします。
お客さんを迎える玄関までのアプローチに、前回訪問時にはなかったはずの南天が。
可愛く竹の筒に入って飾られていました。
はて?ここに南天はなかったはず…。これはおじいちゃんの作品かな?と予想したところ、「あたり」!
南天の実が鹿に食べられてしまうそうで、おじいちゃんが竹の花瓶(?)を設置して飾っていました。さすがアイディアマンのおじいちゃん。こういう木があるのかと見間違えてしまうほどの完成度でした!
2月は冬で最も寒い時期。インフルエンザも過去に例を見ない警戒レベルだそうで…。冬の野菜や果物は免疫力を高めて風邪予防にいいものばかりですので、おじいちゃん・おばあちゃんのように元気に過ごすためにたくさん頂きましょうね!
ではまた。