こんにちは。クラッソーネライターの豊田有希です。
富士山と生きるおばあちゃんの知恵では、山梨県巨摩郡身延町に住むおじいちゃん、おばあちゃんの暮らしの知恵を紹介しています。

第17回の1月(睦月)。
お正月の三が日をあけた頃におばあちゃん、おじいちゃんのところに伺って来ました。
なんと、手作りの御節をご馳走になりました。

「うちは田舎の御節だよ」「えびとかはないんだよ」とおじいちゃんが教えてくれます。
畑でとれた里芋、しいたけ、春にとって塩漬けしておいた竹の子とこんぶの煮物。
そして、山梨県市川美郷町の名物なが~い大塚人参とごぼうのきんぴらや金時まめの煮物などなど。
その他には、買ってきた伊達巻、栗の甘露煮、かまぼこ、かずのこですね。

こちらはお吸い物(お雑煮ではありません)。御椀を開けるとふわ~とゆずの香りが漂います。
思わず「いい香り~」と声をあげてしまいました。

そして自家製の白菜のお漬物。

こちらにもゆずの香りが。

突然ですが、みなさま、「大塚人参」ってご存知ですか?
山梨県の市川三郷町の名産で、12月にちょうど収穫ができるなが~い人参です。

この人参がどれくらい長いかと言うと、ごぼうと同じくらいの長さがあります。
長いものでは80cm程もあるので、抜くのが大変です!

そのため、この人参の畑では建築現場で使う重機で掘り起こして収穫するという場面を見たことがあります。
私も収穫体験の経験があるのですが、さつまいも堀りの要領で人参の四隅を深く深く掘っていって、最後に抜きます。
抜く時の「スッコーーーーン」という感触が快感になりそうでした。

そして、なぜこんなに長い人参ができるかと言うと、その理由は「土」。
のっぷいと言われる肥沃できめが細かい土壌にその秘密があり、人参が下に下にと成長していくと言われています。
独特の風味と甘さがあってとても美味しいんですよ!
色も鮮やかです。

おばあちゃんはこの大塚人参をきんぴらにしていました。
甘みがあってパクパクと箸が止まらなくなる美味しさです。
なが~い人参と言うと、すえなが~く生きる(長寿)につながりそうなので縁起がよさそうですね!

次にこちら。
竹の子の煮物。
春に収穫した竹の子がおせち料理に使われていました。
田舎では春の竹の子を保存しておいてお正月に使うことはよくあるのですが、やり方に工夫がありました。

竹の子といえば「あく抜き」が大変なイメージがありますよね。
米ぬかや灰を入れてあく抜きをしますが、時間もかかります。
竹の子が売られていると、食べたいけどあくぬきが手間だなぁなんて思ってしまいますが、この竹の子は、あくぬきをせずに春から保存をしていたものだそうです。

えーーそんなやり方あるんですね。
初耳なので、おばあちゃんにやり方を教えてもらいました。

新鮮な竹の子の長期保存に!あく抜きいらず。竹の子の塩漬け

  1. 竹の子の皮をむき、薄くスライスして切る。(あく抜きはしない)
  2. お天気の良い日に3時間くらい天日干しをする。
    竹の子は水がでるので、干す台を少し斜めにしておくことで自然と水を下に落とす。
  3. 容器に竹の子とたっぷりの塩をまぶして冷暗所で保管する
    (塩加減は竹の子が埋まるくらいたっぷりと)
  4. 使うときに塩抜きをする。
    水で流すだけでは塩が抜けないので、お水に竹の子を入れて沸騰させる。

もし今年4月から5月にかけて新鮮な竹の子が手に入ったらやってみたいですね!

そして、おばあちゃんの手作り「のし餅」をつづいて頂くことに。
左側は白い御餅をのしたもの。
右側はえごま、やきのり、きびの入った御餅です。

右側には砂糖、塩が予め入っているのでちょっとしたおやつ感覚です。
オーブントースターで暖めるとこんなに伸びます。
この”長く伸びて切れない”=御餅は長寿を願った食べ物と言われています。

のし餅は、つきたてのお餅を伸ばしてかまぼこ型にするそうなのですが、これがとっても熱い作業!
熱々の御餅でやらないとできないためです。
昔の人は手でやっていたようですが、おばあちゃんは新しい軍手を濡らしてつかっているそうです。
お友達が教えてくださったそうで、それであれば熱いお餅を伸ばして整えることができるとのこと。
何でも工夫次第ですね。
ついた餅に焼き海苔、炒ったえごま、お砂糖を入れるのですが、砂糖を入れすぎるとまとまらないんだそうです。
ここにもちょうどいいいい”塩梅”があるんですね。

昔はいろいろな”塩梅”や”さじ加減”を教えてはもらえなかったようです。
仏壇のお供え餅も手作りするおばあちゃん。
雪だるまのようなかわいいお供え餅は、上側が少し黄色がかっています。
これはきびが入っているから。
お姑さんが作っていたものを真似て作っているそうですが、レシピはなく”見よう見まね”で覚えたもの。
昔の人はマニュアルなんてなくて、見よう見まねで習得してきたんだよと笑顔で教えてくれました。
それもぜんぜん愚痴っぽくなく、そういうものだったから、と。
きっとご先祖様も喜んでいることでしょう。

冬になると畑で収穫できる野菜も減ってしまうようですが、大事な”里芋”は畑で保管しているようです。

芋類は地面の下に実がなりますので、地面から上の部分を切ってしまいそちらに栄養がいかないようにした上で、畑の中にそのままにしておき、藁とトタンを乗せて保温をしています。
台所に里芋がなくなったら、スーパーに行くのではなく、「畑に取りに行く」そうなんです。

お正月の玄関はパワースポット

新年を迎えたおじいちゃん、おばあちゃんの玄関には立派なしめ縄がお出迎えしてくれます。
こちらは毎年頂くものだそうです。
人が作ったとは思えないほどきれいにできています。達人の技です。

玄関は紅白の南天が飾られています。
門松の竹はおじいちゃんが山から切ってきたもの。

こちらの小さな赤い実がついたものは「おもと(万年青)」。
年中緑色の葉がのびのびと育っていることから縁起が良いと言われていたり、長寿を表すと言われているそうです。
玄関はまるでパワースポットのように縁起のいい植物たちがいっぱいです。

そして玄関だけではなく、米蔵などにも小さなしめ縄飾りが飾られていました。
おばあちゃんが手作りをしていて、毎年こうやって飾っているようです。

収穫したお米を保管していた米蔵にもちゃんと手作りの鏡餅が飾ってありました。

こういったものは、ついついお金で買って済ましてしまいそうになりますが、自然から恵みをもらって暮らしているからこそ、感謝の気持ちを表すことが当たり前にある生活が脈々と続いてきたのだと感じます。

今年もおじいちゃん、おばあちゃんの生活の知恵を掘り起こしていきたいと思っています。
どうぞよろしくお願いします。

編集後記

この集落には1月下旬から2月上旬にかけて「星祭り」というものが開催されます。
身延町は身延山久遠寺という日蓮宗の総本山があることもあり、日蓮宗の方が多いです。

日蓮宗は”荒行”で知られていますが(私も身延によく来るまではぜんぜん知りませんでした!)いろいろな地域で人間と関係の深い天体(星)を祭るお祭りとして星祭が開催されているようです。この地域の「星祭り」は荒行をしてくれた上人さんたちが、ふんどしひつひとつで、お経を唱えながら、”水行”をされます。
この一番寒い時期に、ふんどしひとつでしゃがみ、お水を頭にかけながらお経を唱えます。

一度見学させてもらったことがあるのですが、何分くらいだったでしょうか。
けっこう長い時間のように感じました。
頭にかけるといっても、肩にかけるそうで、やっているご本人はお経を唱えているので”熱い”そうです。
この星祭は集落に人が集まるひとつの行事でもあり、100人以上が集まるようで10軒もないようなひとつの集落になんとこのときばかりは「屋台」が5-6軒並びます。
過疎の田舎の集落に”屋台”がやってくる姿は面白いなと思います!
(写真がなくてごめんなさい)