こんにちは。クラッソーネライターの豊田有希です。
富士山と生きるおばあちゃんの知恵では、山梨県巨摩郡身延町に住むおじいちゃん、おばあちゃんの暮らしの知恵を毎月紹介しています。
今回は、この連載の最終回となります。約3年の取材を通して感じてきた、私なりの総括「スローライフとは」を綴ってみたいと思います。
そして、連載中に特に人気の高かった「おばあちゃんのレシピ」を再度ご紹介していきます。
最後までよろしくお願いしますね。
昔ながらの自給自足生活で、自然の恵みを活かして生活しているおじいちゃん、おばあちゃん。私にとってお2人は「SDGs(エスディージーズ)持続可能な循環型」(※)の暮らしを生きてきた生き字引のような存在だと思っています。
※2015年9月に国連で開かれたサミットの中で世界のリーダーによって決められた、国際社会共通の目標17項目↓↓
お2人がSDGs(エスディージーズ)という世界の取り組みを特に意識しているというわけではなく、土地の恵みを活用し、使ったものは土に還す持続的な生活を脈々と続けています。その実際の暮らしぶりをご紹介していきましょう。
おじいちゃんおばあちゃんの食卓にあがる野菜は基本的にすべて自家製。時々、猿や鹿に食べられてしまうけど、たくさん収穫できたら私にもおすそ分けをしてくれます。
そんなおばあちゃんたちの四季の野菜と暮らしをプレイバック!
春には芽吹いたばかりの山菜を取り、苦味を食べて『春』を味わいます。わらび、のびる、竹の子、ふきのとう、たらの芽、ミョウガなんかが取れますね。
私はおじいちゃんが育てたうどをもらい、初めてうどのきんぴらを食べてその美味しさに開眼しました!でもこれもきっと新鮮ゆえの美味しさだったのだろうなあと思います。
そして夏はトマト、キュウリ、ナス、インゲンなど水分をたくさん含んだ野菜たちが収穫できます。
キュウリやナスが毎日たくさん取れるので、おばあちゃんがあの手この手で食卓に乗せます。じゃがいも掘りをするのもこの時期ですね。
おばあちゃん手作りの赤紫蘇ジュースは「口の中で一瞬、爽やかな風が吹く」逸品。一度飲んだら忘れられない味です。
秋は身延町の特産のあけぼの大豆が枝豆として楽しめる季節。
小松菜やほうれん草、サツマイモを収穫したり、まだまだ取れる自家製夏野菜を楽しみながら、畑では冬野菜の支度をしていきます。
冬になると、大根や白菜などの鍋にぴったりな野菜たちが畑の主役になります。おばあちゃんは煮物にするとトロリと柔らかくなる聖護院大根と普通の大根を大事に育てています。
今年の大根は、大きなものがたくさん取れたのですが、大きすぎてたくあんに漬け込めなかった(一本丸々漬けるには大きすぎた!)そうです。
何と言っても大根の葉っぱが立派で見るからにみずみずしい!葉っぱは、ジャコと炒めてご飯のお供となりました。
確かに漬物にするには大きすぎる!葉っぱも美味しそうです。
冬になるとおじいちゃんがやっていたのは炭焼き。
炭焼きの窯もおじいちゃんのお手製です。剪定した枝を材料にして作った炭はもう充分すぎるぐらい在庫があって、今でもこたつの燃料は炭。炭こたつに足を入れると、遠赤外線で足の芯から温まります。
炭焼きはかなり手間がかかるそうですし、在庫もまだまだたくさんあるので今年の冬で最後かな~とおじいちゃん。今は炭も手軽に買える時代ですが、こうして昔ながらの日本文化を見なくなっていくのはなんとも寂しいものですね…。
ふきのとうって、この時期に出るの?とびっくりしてしまったのですが、12月中旬に枯れたフキの根元のところに出ていたふきのとうを見せてもらいました。
おじいちゃん、おばあちゃんはもう天ぷらにして食べたそうです。
「昔、年越しにお母さんが探してきて年越し蕎麦と天ぷらを食べたから、もう出ているんだろうなと思ってね。この時期のふきのとうは花が開いていないから、苦味があって香りが立つのよ」とおばあちゃん。
確かに、春に見る花が開いたふきのとうとは違い、実のような形です。
これがそんなに美味しいなんて知らなかった!これからは、足元をしっかり探しながら歩かないと(笑)。
「最近は、草取りは手ではやらずに機械でやることが増えたから、足元のふきのとうに気付かないで間違えて切ってしまうことが多いんだよね。切らないでおけばずっと毎年出てくるんだよ。」とおじいちゃん。
最近は土手の草刈りも除草剤を使われることが増え、そこに生えている“のびる”などの山菜も消えてしまうことが多いそうです。
それに気づいたおじいちゃんは、のびるを畑に植え替えてくれていました。こういうところに自然への愛情を感じますね。
畑の管理や山菜など力の要るものを収穫するのはおじいちゃん。それを洗って料理に仕立てるのはおばあちゃんで、お2人にはそれぞれの役割がしっかりとあって助け合って生きています。
ある日、散歩していたおばあちゃん。川辺にふきの群生を見つけて、のぶきは香りがいいからキャラブキにしたい!と思ったそうですが、近くの川には堤防ができて川辺まで降りられなくなってしまっていました。
どうしても欲しいとおじいちゃんにお願いして、おじいちゃんは川の土手まで行って1キロくらいのふきを取ってきたこともあるそうです。
取ってきても、ふきをきれいにするのがまた大変なんだよねぇ
そうなの。きれいに洗ってゴミを取って、食べられるようにするまでには結構大変なのよ~
ペアワークが光るおじいちゃんとおばあちゃん。「面倒くさいから嫌だよ」と言ってしまえばそれまでなんですが、おばあちゃんのために「分かったよ~」と行ってきてくれるその優しさ。
そしておばあちゃんはおじいちゃんのその気持ちに、美味しいきゃらぶきで応えます。
そんなおじいちゃんは来年80歳になります。
3人で雑談をしていると、話は「あとどれくらい生きるんだろう?」という流れになったりします。
男性と女性は平均寿命が10歳違うでしょう。女房は5歳年下だからやっぱりどうしても俺のほうが先になっちゃうんだろうなぁ~
だから、お父さんには良い食べ物を食べて長く生きてもらわないと。
なるべくおばあちゃんを置いていかないようにってことですか?
そう。あまり長く置いていかれると困るから、一緒に行くよって言ってるんだけどね。
俺が80歳で亡くなってしまえば女房はそのとき75歳だから、平均寿命まであと10年間、年金も一人分しかないからねえ。
おじいちゃん、優しいなあ。そんなことまで考えているんですね。
あんまり人もたくさん暮らしていないここに一人残していくのはやっぱり気になるよねえ。
おじいちゃんの健康を気遣うおばあちゃんと、男女の平均寿命の差を計算して、自分が死んでしまった後のことを心配するおじいちゃん。
お互いがお互いを気遣う理想の夫婦だなぁ〜と思います。
おじいちゃんにはぜひおばあちゃんの手作り野菜とお料理で栄養をとり、野良仕事で健康を維持して長生きをしてもらいたいです。
おばあちゃんは、毎年楽しみにしてくれている人たちにこの地で取れるものをおすそ分けしていて、私はそれを勝手に『おばあちゃんの温もり便』と呼んでいます。
畑で取れた季節の野菜や果物だけでなく、そこにはおばあちゃんの優しい気持ちがよく表れています。
例えば、竹の子ややわらびはそのまま送っても慣れない人にとってはアク抜きなどの下ごしらえが大変ですし、やり方もよく分からないとなると、調べる手間もかかります。
そこでおばあちゃんは受け取った人がすぐに食べられるようにアクを抜き、下ゆでをしてから箱に詰めて送ります。
秋には、身延町の特産、あけぼの大豆の枝豆にその時取れた野菜があればそれを入れて。
冬はゆずとゆずジャムをセットで入れます。
箱を開けてこんな贈り物が入っていたら、ゆずの香りと色に一瞬で癒されそうですね。受け取った人から「美味しかった!」という手紙をもらったりすると、とても嬉しいそうです。
私もおばあちゃんにお土産にもらったゆずジャムにお湯を入れたホットゆずドリンクを飲みながら、思うのです。
おばあちゃんが贈っているものは、このような野菜や果物だけではなく、「自然の恵みをおすそ分けする気持ち」だったり、「ふるさとを思い出すような温かい気持ち」やおじいちゃんおばあちゃんの笑顔なのだと。
やっぱり、『おばあちゃんの温もり便』です。
そこでおばあちゃんにちょっと聞いてみました。
旬のものを活用するのは、年に一度のことで忘れちゃったりしませんか?
その時にたっくさん作るから忘れないねえ。今年のゆずジャムは10キロくらい作ったのよ~
(10キロのジャムって瓶何個分だろう…?!)
寒い日には外のことができないからちょうどいいのよ。部屋でせっせとゆずの種を取って準備しておいて(これが大変)、台所に立った時にコトコト火にかけるのよ。
できる間に少しずつ。そうやって無理なく続けることが、コツなのかもしれませんね。
おばあちゃんにとっては特別なことではなく「ゆずがたくさん取れたから誰かにあげよう」というそれだけのことなのかもしれません。
でももらうほうからすると、それがとっても嬉しいのですが。
この連載で紹介してきたおばあちゃんのレシピの中でも、反響の多かったものをそれぞれ季節ごとにご紹介します。
ふきのとう味噌・ご飯のお供に。
https://crassone.media/fukimiso/
乾燥たけのこ・アク抜きをせずに作れる!
https://crassone.media/bambooshoot/
自家製・きゅうりのQちゃん
https://crassone.media/himatsuri/
ねっとりホクホク!メイクイーンのポテトフライhttps://crassone.media/inaka_miso/
冬版は、前号でご紹介した白菜の漬物。
まだまだ紹介したことは沢山あるのですが・・・ここでそろそろおしまいにしたいと思います!
最後の取材に行ったこの日、行きは雨だったのですが、帰りには本栖湖で富士山が見られて、なんだか「お疲れ様!」とお見送りされている気分でした。
長いもので3年以上にわたる連載になりました。
楽しみにしていただいた皆様、本当にありがとうございました。
そして何よりも、毎月の取材にお付き合いくださった修身さん・章子さんに感謝しています。取材を通して、お二人の生活を聞かせていただいたことは、とっても貴重な宝物になりました。
少しずつ移り変わっていく日本文化。世の中の仕組みはどんどん便利で合理的になっていきますが、お2人のように昔ながらの「育てて、食べる」「作って、直す」という生活でしか味わえない楽しみや感動を私にもお裾分けいただけて、本当に楽しかったです。
でもまだまだ聞き足りないことはたくさんありますので、これからも足繁く通いたいと思っています(笑)。
また、取材を手伝ってくれた私の母や友人たちにも、クラッソーネマガジンの編集をしてくださった皆様にもこの場を借りて感謝申し上げます。
おじいちゃん、おばあちゃんが続けてきた『地球に優しい循環生活』を私たち次の世代がが少しでも受け継ぐことができますように、という願いを込めてこの連載を終わらせていただきます。
長い間、ありがとうございました!
豊田 有希